稀な事象と災害による空港の閉鎖 -関西国際空港と新千歳空港が直面した問題を顧みて- <上>

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最初に今回の災害と空港被害の出方を簡単に整理したいと思います。関空は、台風接近に伴い高潮が発生し、滑走路とターミナルビルの地階部分が浸水、電源施設も同様の被害を受け、ターミナルビルは全面的に停電します。さらに強風により海上のタンカーが流され、連絡橋の鉄道橋部分が破損、アクセス鉄道が全面運休に追い込まれます。連絡橋の安全性が十分に確認できなかったため、連絡橋の道路部分も通行が規制されました。電気と空港アクセスが絶たれた状況になりました。

新千歳は、地震発生後、一時的に滑走路は閉鎖されましたが、特に大きな問題はありませんでした。ターミナルビルは一部、大きな破損が発生し、店舗等の営業は休止をやむなくされました。問題を大きくしたのは、空港外の要因だったのですが、道内のブラックアウト、全面停電でした。非常用の一部の設備を除き、ターミナルビルは停電しました。新千歳はJR北海道と共同して、早くにアクセス鉄道を整備したのですが、これも停電で全面運休に追い込まれました。道路交通は機能を維持したのですが、ガソリンスタンドは停電で休止していますし、信号も止まり、高速バスの運行再開まではかなり時間を要しました。ここでも電気と空港アクセスが絶たれた状態に陥りました。関空と新千歳、直面した災害はまったく異なるのですが、直面した事態には電気と空港アクセスの途断という点で共通する部分があります。

空港というのは、主に滑走路とターミナルビルから構成されます。こんなことわざわざ分けて説明する意味なんてあるの?と思うのではないでしょうか。多くの人は、飛行機に乗る、チェックインとか待合室のある場所、それがターミナルビルですが、そこしかまず意識しないはずです。しかし飛行機は滑走路がなければ、降りることも、飛び立つこともできません。飛行機にとっては、それを用いて営業する場合には航空会社ですが、滑走路が閉鎖されたら降りることができないのですから、それが閉鎖されるかどうかが重要な問題になります。ターミナルビルがダウン、もしくは閉鎖されて、乗客を乗せ込めなくなる、内戦とかが起きる政情不安定な国では別ですが、そういうことはまず想定していません。

滑走路の閉鎖というのは、頻繁に起きます。小さいことなら、滑走路上に落下物等があって、それを除去するために、一時的に閉鎖したりします。不時着や事故があった場合もそうですし、大きな地震があった場合には被害がないかの確認のために、滑走路を閉鎖して、飛行機の離発着を制限し、安全性の確保を行います。このことは航空会社をはじめ、航空業界の人は了解していることですし、稀なことではないので、対応時間や対応の方法、その指示がほぼ標準化されています。短い閉鎖やメドがほぼ立っている場合には、上空にいる飛行機に待機を指示しますし、メドが立たず、長時間に渡りそうな場合には、燃料の関係もありますので、他の空港に向かうことを指示します。このため関係者の人は、この点の情報収集はかなり専門的にやりますし、対応はルーティーン化されていますので、あまり大きく驚くことはありません。

搭乗口とかがあるターミナルビルは、営業時間が終了したら閉めますが、それ以外の理由で閉鎖するという発想はありません。どちらかと言うと、台風の接近や荒天とかでフライトがキャンセルになり、帰れなくなった観光客を一晩泊めるために、ターミナルビルを開放すると言った使われ方をします。沖縄の那覇空港は台風の到来で、そういうことが頻繁に起きますので、ターミナルビルの会社はその対応を熟知しており、早め早めに動き、その見事さで有名でもあります。このように滑走路やターミナルビルが部分部分で休止、もしくは閉鎖されることはあるのですが、両者をあわせた空港自体が機能停止、閉鎖ということはまずない事態です。

いま空港は、世界各国の空港と競争する時代になりました。利用者を増やすための努力、主に外国人観光客の誘致ですが、それをエアポート・セールスと言います。多くの場合、ターミナルビルを所有、もしくは運営する会社が行っています。空港経営とも言うのですが、基本的に滑走路部分は含みません(一部、例外はありますが、滑走路は国が管理・運営しています)。ターミナルビルの営業と近隣の観光地、観光施設との連携が主です。
戦後、日本で新しく作った空港は都市中心部から遠く、アクセスが悪い所が多いのですが、これは別途、既存の鉄道と連絡させ、アクセス鉄道整備を行ってきました。アクセス鉄道は空港機能の一部ではありますが、それは鉄道会社の営業ですので、共同キャンペーンは行いますが、空港経営には含まれていません。滑走路、ターミナルビル、アクセス鉄道、これらが別々の主体や会社によって、管理・運営されているのが日本の空港の特徴です。決して分散的に管理・運営するのが悪いことではありません。いままで各空港は、この体制で上手くやってきました。しかし今回の災害、関空と新千歳の問題は、この分散的な空港運営の弱点が大きく露呈しました。
<下>につづく

文章:澤野 孝一朗