
「金融自由化で日本の証券市場は
どう変わったか」
坂和秀晃 / 渡辺直樹著
2016年3月
ミネルヴァ書房
ご著書の内容についてお話しいただけますか?
本書籍は、「マーケット・マイクロストラクチャー」という多くの人には、余り馴染みの少ない分野について紹介した書籍になります。「マーケット・マイクロストラクチャー」というと聞き馴染みのない方が多いと思いますが、金融市場の仕組みをミクロ経済学の知識を使って分析しようという分野です。ファイナンスでは、「投資家がどのように取引する金融資産を決めるか?」を考える時に、現在保有しているポートフォリオの「リスク」と「リターン」のバランスを考えて取引を行うと考えます。結果として、金融市場の「均衡」においては、合理的な投資家は、市場ポートフォリオを保有するというCAPM(Capital Asset Pricing Model)の考え方が主流です。
しかしながら、現実の市場取引においては、各証券の取引が「均衡」状態になっていない時間の方が長いことが知られています。現実の金融市場での取引時間の大半は、投資家に影響を与えるような「ニュース」(A社の新製品は革新的で、A社の次の決算には好材料だろう)などの影響を受けて、金融市場での価格付けは「均衡」から逸脱することになります。その後、そのような「新ニュース」の効果を織り込む形で、均衡価格に向かった調整(取引)が続くことが想定されます。本書籍では、「証券価格はどのように均衡価格に調整されるのか?」を分析するための「マーケット・マイクロストラクチャー」という分野についての解説と、その手法を用いた研究事例をいくつか示しています。
ご自身からみてご著書の一番の成果は何でしょうか?
規制業種といわれていた金融業界の規制緩和の動き、いわゆる「金融自由化」に関しては、「フリー・フェアー・グローバル」な日本の市場を作ろうということで、新聞・テレビなどを賑わすことも多かったように記憶しています。一方で、「金融市場の何が変わったか?」という点については、実際の分析が少なかったように思います。たとえば、「フェアーな市場になったか?」というテーマに関しては、投資家への情報格差を減らすような形で取引システムの変更が行われており、それが実際に情報格差を減らすことに役立っているといったような現実的な分析をできた点は大きな成果ではないかと思っています。
逆にもっとも苦心された点は何でしょうか?
金融実務出身というわけではないので、どうしても「金融市場」の実体がわかっているかといえば、なかなか難しい点があります。その意味では、現実の「金融市場はどう変化しているのか?」ということを直感的に理解することが非常に難しかったように思います。
この著書の先生のご研究における位置づけを教えてください?
2000年代初頭には、『これからの日本社会は「金融自由化」により大きく変わっていくだろう』という言説を良く聞きました。本書では「どの程度変わったのか?」という答えが少しは出せたかなと思っています。今後は、本書籍が対象とした「金融自由化が日本の金融市場に与える影響」についての延長線上にある諸現象を分析したいと考えています。
その他、読者の方に伝えたいことがあれば何でもおっしゃってください
経済学・経営学に関連する分野は、「人間社会」を分析する分野で、「人間社会」の変化に伴ってその分析対象・分析方法も大きく変わっていきます。進歩の速い現代社会で、色々な変化について取沙汰されることも多いかと思いますが、そういった変化の分析についても、経済学・経営学の分析が役に立つのだということを少しでも感じて頂ければ幸いです。

名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授。
1979(昭和54)年5月に生まれる。
2003(平成15)年3月東京大学経済学部卒業、
2008(平成20)年3月大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。
大阪大学社会経済研究所特任研究員、名古屋市立大学大学院経済学研究科講師、テンプル大学フォックスビジネススクール客員研究員(Visiting Research Scholar)などを経て2013(平成25)年4月より現職。
専門はコーポレート・ガバナンス、マーケット・マイクロストラクチャー。

名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授。
1979(昭和54)年7月生まれ。
2003(平成15)年3月東京大学経済学部卒業。
2008(平成20)年9月大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程単位取得退学、博士(国際公共政策)。
東洋大学経営学部・助教、立命館大学経営学部・講師などを経て2016(平成28)年4月より現職。
専門は企業統治、マーケット・マイクロストラクチャー、企業金融。