自著を語る #2 「マーケット進化論」(横山和輝著)

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book_yokoyama 「マーケット進化論」
   横山和輝著 
   2016年1月 
   日本評論社

  


kao_yokoyama2『マーケット進化論』、どんな内容の本ですか?
横山:日本の市場経済の歴史を描いた本です。13世紀前後から20世紀前半までの日本では、市場経済の機能を活かす様々な工夫が施されていた、というのが主な内容です。

ということは日本経済史の入門書なのですか?
横山:そうですね、経済学を学んだ方々に向けて「歴史も面白いよ」と呼びかけるように書きました。ただしオーソドックスな経済史の書き方とは少し違うものにしました。経済史と経済学って溝があったんですよ。経済学者はあまり歴史に関心を向けてこなかったし、経済史家もこと日本では理論経済学や計量経済学の成果を吸収することに関心を寄せてこなかったし。近年ようやくその溝を埋めようと新しい潮流が生まれつつあります。僕はこの本のなかで、その潮流に乗って「日本史を経済学で捉え直してみましょうよ」と呼びかけてみたのです。

そういったご著書の最大の貢献とはどのようなものだとお考えですか?
横山:計算能力という切り口をクローズアップした点です。いつの時代であろうと、市場経済の主人公は交換する人々です。売り手であれ、買い手であれ、名もなき人々が市場で交換しあっています。お金を稼ぐ、借りて利子を払う、貸して利子を受け取る、さらに税金を納める、といった様々な判断の場面場面では、金利計算であったり税率計算であったり、計算能力が要請されます。計算能力というのは、ビジネス感覚を磨く上でも必須のものです。だからこそ、計算能力の向上が市場経済の発達を支えているとも言えます。そういった計算能力の重要性に着眼した上で市場設計の歴史を描いたことに本書の意義があると思っています。

随分と長い期間を対象としているのですね、苦労なさったのではありませんか?
横山:これはお恥ずかしいことなんですが、勉強不足を痛感する日々でしたね。僕は元々は1930年代の金融システムの変化を専門に研究を進めてきました。なので1930年代のことなら多少は知っています。でも他の時代、例えば律令制のこととなるとゼロからのスタートです。だから先端の研究成果を追いかけるのに必死でした。でも、歴史学の先端ってとても面白いんですよ、だから自分の不勉強そっちのけで楽しんでました(笑)。様々な史実を解明なさった日本史の研究者の方々の努力にはただただ脱帽、尊敬、そして感謝する毎日です。市場経済というシロモノに関して、どのようにルールを維持・改革していくべきか、そういった大きなヒントを歴史学の方々から頂けたのです。何よりそれがとても面白いもので、楽しくもあり嬉しくもありました。苦労と呼べるようなものではありません。

この本を読む名市大の学生さんたちに伝えたいことはありますか?
横山:授業を大事にして欲しいと思います。この本は『経済セミナー』(日本評論社)という雑誌での連載がもとになっています。この連載の構想段階で意識していたことがあります。それは、僕が大学3年生のときに受講した歴史学の授業の課題です。ご担当は網野善彦という、今は亡き歴史学者です。最終授業日に先生は「私の授業を批判しなさい」というレポート課題をつきつけました。先生が描いた日本の歴史の捉え方と違う捉え方をするとすればどうなるか、20年遅れて再提出したレポートがこの本です。僕と同じことをしろとはいいません。ただ、授業ひとつ、何かの社会への貢献のきっかけになると思うんです。名市大生なら僕以上のことができるはずです。そういった可能性がひとつひとつの授業や演習に潜んでいることを学生さんには知って欲しいと思います。


横山和輝
1971年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学、一橋大学経済学部助手、東京大学日本経済国際共同研究センター研究員を経て、現在、名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授。

◆ 横山先生のウェブサイトはこちら