
国際金融論という経済学の分野では、為替レートが非常に重要な要因として扱われています。実際に、テレビのニュースなどでは毎日のように為替レート(例:円相場)の動向が伝えられています。なぜ為替レートの動きは日々のニュースで報道しなければならないほど重要なのでしょうか?このコラムでは、簡単な応用例を紹介したいと思います。
2013年11月にApple社からiPad Airが発売されました。とても軽量でサイズもコンパクトであり使用する場所を問わないでしょうから、購入を真剣に考えている人も多いかもしれません。
日本版Appleストアでの表示価格を見ると、一番安価なモデルで48,800円(税別)から購入可能となっています。商品の性能を考えれば良心的な値段と言えるかもしれませんが、試しに別の国での購入を考えたいと思います。例えば、日本で生活している私たちが「アメリカで同じモデルを購入」する場合、何円で買うことが出来るでしょうか?税金や各種輸送費用を考慮しなければ、以下の通りです。
2007年6月:61,500円
2011年10月:38,500円
2014年1月:52,000円
2013年以前にiPad Airは発売されていませんので、これは仮想的な検証に過ぎません。そうであっても、2011年なら上記の価格48,800円よりも1万円程度安く購入出来るという結果は、なかなか衝撃的です。何故このようなことが起きるのでしょうか?その原因は為替レートの変動であり、下のグラフにまとめてあります。

グラフには、2005年以降の円相場(円の対ドル為替レート)の推移が示されています。例えば2005年1月の場合、データの値が103となっています(縦軸の値)。これは、円相場は1ドル=103円という意味であり、1ドルと103円を交換することが出来ます。そのため、この為替レートは円とドルの交換レートを指します。
米国版Appleストアでの表示価格よりiPad Airは499ドルから購入可能ですが、計算を簡単にするために500ドルとしましょう。あとは、この500ドルに相当する円を計算すれば、500ドルのiPad Airを購入するためには「何円必要であるか」が分かります。もちろんドルを円に換算しますから、両者の交換レートである為替レートを使います。具体的には以下の表の通りです。
以上のことから、私たちは以下の重要な結論を得ることができます。
(1)為替レートの値が大きくなる(円安と呼ぶ)⇒ 外国の商品が買い辛くなる
(2)為替レートの値が小さくなる(円高と呼ぶ)⇒ 外国の商品が買い易くなる
外国と商品を売買することを、貿易と呼びます。したがって、貿易に携わる企業にとって、為替レートの変動は非常に重要となります。例えば、円相場が1円変動するだけで年間の営業利益が数億円単位で変動する企業がある、という調査結果があるくらいです。なお、以上の議論をアメリカ側(日本の商品を買う側)から考えると、円安によって日本の景気が良くなるという主張の背景を整理することが出来ますので、経済分析の良いエクササイズになるでしょう。
以上の議論のそもそもの原因である円相場の変動の背景については、様々な説明が可能です。今回のコラムでは説明しきれませんので省略しますが、国際金融論を学ぶと為替レートの変動要因を論理的に理解することが出来ます。そのため、貿易など国際的な仕事に関わる人、そのような仕事を目指す人にとって、国際金融論の勉強は役に立つでしょう。
著者: 稲垣一之
キーワード:為替レート、円安、円高
関連講義名:国際金融論