
日本は台風や地震、火山など、世界の中でも自然災害の多い国として知られており、特に2011年に発生し日本全体に甚大な被害をもたらした東日本大震災は、今もなお私たちに多大な影響を与え続けています。このような自然災害による大きな被害は、日本だけでなく、例えばスマトラ島沖地震(2004年)、米国ハリケーンカトリーナ(2005年)、中国四川大地震(2008年)、ハイチ地震(2010年)等、世界の様々な国で発生しており、世界中の人々に多大な影響を与えています。
図1は1980年から2014年における全世界において大きな被害をもたらした自然災害の発生回数(左軸)と自然災害によって生じた死者数/被災者数比率(右軸)を示したものです。この図は、発生回数は年々増加傾向にあるものの、死者数は、年ごとに変動はあるものの、増加や減少などのトレンドはないことを示しています。このことは、近年、自然災害の発生回数は増えているものの、それによる死者数はそれほど増えていない、すなわち、「自然災害1件あたりの死者数は年々、減少傾向にある」ことを意味しています。
(出所:EM-DAT: International Disaster Database)
これは、どのような要因によるものでしょうか。もしその要因が分かれば、それによって、全世界における自然災害による死者数を更に減少させることができるかもしれません。ところで、1980年から2014年の期間中に、全世界的に私たちの生活において劇的に変化してきたことは何でしょうか?例えば、EUなどに代表されるように人やモノの国家間の移動が容易となり、国と国の関係性がより密接となる「グローバル化」であったり、「コンピューター技術・性能の急速な進歩」であったり、それに伴う「インターネット技術の確立・進展」や「携帯電話やスマートフォンの普及」など様々なことが挙げられるでしょう。その中でも、ここでは携帯電話やスマートフォンの急激な進歩と普及に注目してみたいと思います。
図2は1980年から2014年までの世界全体、発展途上国、先進国の携帯電話の普及率を示したものです。この図における特徴的なこととして、普及率の水準は先進国の方が以前として高いものの、最近の普及率のペースは、発展途上国の方が先進国を上回っていることです。携帯電話が発売される前の電話は、いわゆる有線式の固定電話が主であり、それを普及させるためには、町中に中継局を設置し、かつ電話線を町中に敷設しなければならず、インフラ整備コストは大きいものでした。一方、携帯電話は、そもそも電話線が必要ではないことを考えると、インフラ整備コストはそれほど大きくはなく、発展途上国においても比較的容易に普及が進んできたと考えられます。
(出所:World Development Indicators)
私たちの行った最近の研究(Toya and Skidmore (2015))では、携帯電話やスマートフォンの普及は自然災害による死者数にマイナスの効果があることが示される一方で、パソコンなどを用いたインターネットの普及や、固定電話の普及はそれほど効果がないことが示されました。携帯電話は、それを用いて自然災害の非常時に救助のための連絡をとることにより、的確かつ迅速な救助活動が行えることができることや、災害前の避難警報や災害後の危険地域に関する情報を提供することで、各々で事前・事後の災害被害予防が行える意味で非常に重要な役割があると考えられます。この点を考慮すると、各国の政府(特に普及が十分ではない発展途上国)は、自然災害による被害を減少させる効果を留意した上で、その普及を促進させる政策とそれを用いた災害予防政策の充実を行うことが望ましいと考えられます。
参考文献
Toya, Hideki & Skidmore, Mark, 2015. “Information/communication technology and natural disaster vulnerability,” Economics Letters, Elsevier, vol. 137(C), pages 143-145.
著者:外谷英樹
関連キーワード:自然災害、携帯電話
関連講義名:マクロ経済学