
私は、「企業論」という講義を担当しています。「企業論」では、企業の社会的責任(東京電力と原発事故)、企業の形態(郵便局の民営化)、企業統治(東芝やフォルクスワーゲンの不正の責任者)など、現在、社会で問題になっている企業の本質について講義を行っています。
企業論のさまざまなテーマのなかで、私は、「企業家(アントレプレナー)についての研究を行っています。とくに地域とそこでの企業家について研究を行っています。地域での福祉やまちづくりなど、これまでは国や自治体などの行政の役割と考えられてきたことが、地域(社会)企業家と呼ばれる人たちによって行われるようになってきました。
岡山県の倉敷は、大原美術館や美しい街並みや景観などで知られていますが、これらは倉敷紡績の創業者である大原孫三郎という企業家の活動から始まっています。大原さんは、倉敷中央市民病院、大原社会問題研究所など、福祉や学術などの分野でもさまざまな活動業績を残しています。滋賀県長浜市の活性化にも笹原史郎という企業家の活動が重要な役割を果たしています。
地域のなかには企業家がつぎつぎに輩出する地域とそうでない地域があります。京都と名古屋はどちらも世界でも有数の長寿(老舗)企業の多い地域として知られています。京都は、創業400年を超える企業も少なくないなかで、京セラの稲盛和夫、日本電産の永守重信、堀場製作所の堀場雅夫など、数多くの企業家を輩出し、彼らの生み出した企業がまちの経済の中心的役割を担っています。京都では、「日々に新た」という言葉があり、任天堂という花札のメーカーがテレビゲームのニンテンドーに変身してきました。京都はつぎつぎに企業家を輩出し、それによって既存の企業も経営革新を行い、つねに革新が行われているまちなのです。
それに対して、名古屋は企業家の輩出の少ないまちです。開業率(開業数/既存企業数)も廃業率(廃業数/既存企業数)も全国平均よりも低く、堅実な企業風土ということもできますが、廃業率が開業率を上回り、近年廃業率が急増し、市内の企業の数が減少しています。製造業や流通業でとくに企業の数が減少しています。名古屋は古いものが温存され、新しいものに革新がされにくいまちといえるかもしれません。
名古屋にはIT企業や電気・電子分野の企業の本社がほとんどありません。また金融機関や百貨店、流通業などの産業では業界の再編が行われ、かつては名古屋に本社を置いていた東海銀行や松坂屋、ユニーなどの企業の本社がなくなりつつあります。企業家がつぎつぎに輩出し、新しい産業や企業を起こし、あるいは既存の企業を経営革新し、活気のあふれるまちにしていくことが、これからの名古屋には必要です。その担い手となる企業家を名古屋市立大学からたくさん輩出したいと思っています。
著者:角田隆太郎
関連キーワード:地域企業家(アントレプレナー)、経営革新(イノベーション)、まちづくり
関連講義名:企業論