身近な地球温暖化の経済学(上)―電気の需要から考える―

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はじめに

今年もエアコンの欠かせない季節がまたやってきました。今では当たり前の電化製品として、どこの家庭にも必ず一台はありそうなエアコンですが、ほんの数十年前までは高嶺の花であったことをみなさんはご存じでしょうか。それが技術の革新・普及によって、高性能エアコンが手の届く価格で購入できるようにまでなりました。学校の教室にもエアコン設備が普及してきたおかげで、学生のみなさんは授業にも集中して臨むことができ、日々多くの知識を吸収している!?ことと思います(注1)。僕が学生の頃は、教室にエアコンなんてないのが当たり前でした。今でも思い出すとゲンナリしますが、体育の後の授業といったら、汗は止まらないわ、えも言われぬ香りが教室中に立ち込めるわで、生産的な学習ができていたとはとても思えません…

 

経済成長の恩恵と弊害

このエアコンの一例をみても分かるように、特に平成生まれの若いみなさんは、経済成長に伴う技術革新の恩恵を存分に受けているわけですが、その一方で、経済成長は、みなさんに困った問題も一緒にプレゼントしてくれたのです。50年前にはほぼ皆無であったエアコンを、今ではほぼすべての家庭がしかも複数台保有している現状を思い浮かべてみてください(図1)。世帯数自体の増加や、冷蔵庫やパソコンなどその他多くの電化製品の普及もあわせて考えると、家庭における電力需要はうなぎ上りですよね(図2)(注2)。これらの増加する需要に呼応して、電力会社もどんどん電気を作ります。その結果、何が起こるでしょうか?そうです、今では社会や理科の授業で当たり前のように学ぶ地球温暖化がぐいっと進むことになってきます(30年前の教科書には、温暖化の温の字も出てきませんでした)。既存の発電技術では、二酸化炭素を大量に排出する化石燃料の使用がまだまだ発電には不可欠です。このような状況下では、エアコンを使えば使うほど二酸化炭素が排出され、それによって温暖化が進んで暑くなることで、エアコンの使用量がますます増加する、といった悪循環が起きてしまうと言っても決しておおげさではありません。

 

さあ、これから我々の社会はいったいどのように変化していくのでしょうか、また、そのような変化に我々はどう対応していくべきでしょうか。経済学、特に環境経済学と呼ばれる学問では、このような重要課題の解決に向けて、多くの研究者が日々研鑽を積んでいます。次回のコラムでは、その一端をみなさんに紹介したいと思います。

 

(注1) 文部科学省の調査によると、2014年4月1日時点において、全国の公立学校(保育所から高校まで)におけるエアコン(冷房)の平均設置率は約30%となっています。これだけを聞くと、それほど普及していないじゃないかと思う人もいるでしょうし、自分の学校には事実エアコンが設置されていないよという人もいるでしょう。しかし、30%はあくまでも“平均値”であることに留意しましょう。エアコンの需要は地域の気候と大きく関係してきます。一方で、エアコンの設置(供給)率は自治体の財政状況にも大きく左右されています。他にもさまざま理由が考えられるでしょう。その結果、実際のエアコン設置率は、地域や学校・施設の種類によって大きく異なってきます。興味のある人は、文部科学省(2014)の公表データとにらめっこしながら、それらの違いが生じる理由を考えてみてはいかがでしょうか。また、エアコンの普及が教育に対してどのような影響を及ぼしているかについて、教育関連のデータと組み合わせながら調べてみるとおもしろい発見があるかもしれません。このように、経済学の中には、さまざまな統計データを駆使しながら、事由の背後にある経済行動メカニズムやその影響を定量的に分析する計量経済学という分野があります。分析結果を社会システムの改善や政策提言などに還元することのできる重要な学問のひとつとなっています。

(注2) 電力需要の増加傾向は、病院やホテルなどのサービス産業でもみられます。また、ここでは電力消費量に特化した議論を行っていますが、電気以外のエネルギー源(ガスや灯油など)も含めると、二酸化炭素の排出量はさらに増加することになります。

 

図1:一般世帯におけるエアコン普及率と世帯あたりの保有台数(1961-2015)

内田

(注)統計値は年度末のもの。1974年度からエアコン、それ以前はクーラー。

(出所)内閣府消費動向調査

 

図2:世帯あたりの電力消費量と世帯数の推移(1970-2013)

内田2

(出所)電気事業連合会「原子力・エネルギー図面集2015」、総務省「住民基本台帳」

 

参考文献

総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」住民基本台帳 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020102.do?_toGL08020102_&tclassID=000001028704&cycleCode=7&requestSender=estat (2015年6月30日アクセス)

電気事業連合会『原子力・エネルギー図面集2015』 http://www.fepc.or.jp/library/pamphlet/zumenshu/ (2015年6月30日アクセス)

内閣府「消費動向調査―主要耐久消費財等の普及率(一般世帯)―」2015年3月 http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/shouhi.html#taikyuu (2015年6月30日アクセス)

文部科学省『公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況調査の結果について』2014年5月23日報道発表資料 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/05/__icsFiles/afieldfile/2014/05/23/1348060_01.pdf (2015年6月30日アクセス)

e-column目次ページの“地球が暑がっている!”アイコンは、神奈川県の「地球温暖化のしくみ」ホームページより引用いたしました。

 

著者:内田真輔

関連キーワード:地球温暖化、環境経済学、電力需要

関連講義名:環境経済学