歴史的視点からみたエネルギー問題

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2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、テレビや新聞でエネルギーにかんするニュースを目にする機会がふえました。エネルギーが産業活動や私たちの生活に不可欠であることはいうまでもありませんが、日本の場合、石油・石炭・天然ガスなどのエネルギーを海外からの輸入に依存しており、原子力発電がストップしている現在、エネルギー自給率は5%にみたない状況にあります。2011年3月の事故は、資源の少ない日本にとって、エネルギーの安定的な供給がいかに重要な課題になっているかを実感させる出来事だったといえるでしょう。

しかし、こうしたエネルギー問題は、なにも今にはじまったことではありません。「石油危機」という言葉を聞いたことのある人は多いと思いますが、1973年と79〜80年に各々第四次中東戦争とイラン革命の影響で石油価格が高騰し、世界経済は混乱しました。この時までに日本は、「高度成長」(1955〜73年)を通じてGDPが世界第2位の経済大国に成長しており、それを可能にした一因は安価な石油の供給にありましたから、石油危機が日本経済にあたえた影響は大きかったといえます。石油危機以降、日本のエネルギーの供給は多様化し、天然ガスや石炭の利用もふえましたが、原子力をのぞいたこれらのエネルギーも、石油と同様に海外からの輸入に依存しなければなりませんでした。

では、さらに時代をさかのぼって、戦前期の日本のエネルギーの供給はどのようなものだったのでしょうか。明治以降に急速な経済発展を経験した戦前の日本においては、経済発展にともなうエネルギー需要の増加により、主要なエネルギーであった木材(薪炭)の価格が高騰し、1900〜10年頃に産業用の主要エネルギーは木材から石炭に転換しました。ただし、戦後とは異なり、石炭のほとんどは国内で生産されました。国内で生産された石炭は、戦後の「高度成長」期に石油にとってかわられるまで主要なエネルギーとして利用されてきたのです。つまり、日本のエネルギー輸入依存度が現在のように高まったのは、戦後のエネルギー需要の急増に対応するための政策変更の帰結として、石炭から石油へのエネルギー転換、いわゆる「エネルギー革命」が進展したためでした。そして、こうした流れのなかで、戦時期から様々な問題を累積していた石炭産業は、政策的にひかれた衰退産業へのレールの上を歩むことになりました。

世界の主要エネルギーである石炭は、原子力発電がストップしている現在の日本でも需要が増加しています。しかし、先に述べたように、日本は石炭を海外から輸入せざるをえません。それは、日本にすでに石炭が無いからではありません。埋蔵量約80億トンともいわれる石炭があるにもかかわらず、戦時・戦後のエネルギー政策を通じて石炭を生産できない状況をうみだしてきたことに大きな要因があります。もちろん、石炭企業にも問題はありましたが、いずれにしても私たちは自ら重要なエネルギー資源を失い、エネルギーの輸入依存度を高める流れをつくってきたのです(詳しくは杉山伸也・牛島利明編(2012)『日本石炭産業の衰退』慶應義塾大学出版会を参照)。

こうしたエネルギーの歴史からもわかるように、現在社会は過去の歴史の積み重ねのうえに形成されてきたものです。歴史の授業は、暗記科目ではありません。歴史を学ぶということは、過去の経済事象を時間軸のなかに論理的に位置づけ、あるいは異なる地域との比較により解釈していく作業です。そして、過去の失敗を未来にいかしていくことなのです。

 

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著者:山口 明日香

関連キーワード:エネルギー,環境,日本経済史

関連講義名:「経済史Ⅰ」「日本経済史」