よりよい政策試算のために

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新聞などのマスメディアを通して、国際的な取り決めや政策変更が日本経済に及ぼす経済効果の試算結果を見たり聞いたりすることがあると思います。通常、国際的な取り決めを行うとき、あるいは、国内政策を変更するとき、事前にそれらの変更が日本の家計や産業にどのような影響を与えるのか、という試算が行われます。最近では、環太平洋経済連携協定などの貿易自由化や二酸化炭素排出量削減の国際的な取り決めが、あるいは、消費税率の引き上げが日本の家計や産業にどの程度の損失を与えるのか、もしくは、どの程度の便益を与えるのかという試算が行われています。

さて、これらの経済効果は経済モデルを用いて計算されます。試算結果は、用いた経済モデルに設定する経済理論、関数形、パラメータ、データ、シナリオなどの仮定に依存します。したがって、試算結果はモデルによって異なることになります。

私は応用一般均衡モデルを構築して、二酸化炭素排出量削減の取り組みが各国の経済全体に与える影響、家計に与える影響、産業に与える影響などについて試算を行っています。

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試算で構築するモデルに設定する弾力性のパラメータの値によって試算結果は異なるため、弾力性のパラメータ値をどのように設定するのかということは重要な課題です。二酸化炭素排出量削減の取り組みが経済に与える影響について定量的に評価する際には、二酸化炭素発生源に関わるパラメータの値がとりわけ重要になります。例えば、二酸炭素排出量源である各種化石燃料財や電力といったエネルギー財間の代替弾力性、またそれらエネルギー財と資本や労働などの生産要素間の代替弾力性などが重要であり、これらの値の設定如何によって、試算結果が大きく異なることが知られています。

代替弾力性は、財の相対価格が1%変化したときに、相対投入量がどの程度変化するのかということを表すものです。二酸化炭素排出量を削減する場合、二酸化炭素税が導入されることになるでしょう。鉄鋼を生産するケースを考えてみましょう。鉄鋼を生産するには、エネルギー財以外の中間投入財、化石燃料財や電力などのエネルギー財、資本や労働の生産要素が必要です。二酸化炭素税が導入されると、エネルギー財は二酸化炭素を排出するので、エネルギー財の価格は上昇します。エネルギー財の価格が上昇したときに、エネルギー投入量が減少する一方で、資本、労働の投入量の増加が起こることになります。この変化の大きさはエネルギー財と生産要素間の代替弾力性によって決まります。つまり、この代替弾力性の大きさによって、エネルギー財の投入量の減少の大きさ、生産要素の投入量の増加の大きさが変わります。

しかしながら、これらパラメータ値について計測した研究が少ないため、これらのパラメータ値を推定することが求められています。そこでよりよい政策試算を行うために、現在、近年のデータを用いて、計量経済学手法を通して、これらのパラメータ値を推定しています。これらのパラメータを整備することで、より精度の高い試算を行うことができるようになります。

 

著者: 為近 英恵

検索用キーワード: 計量経済学, 応用一般均衡モデル分析

関連講義名:数量分析, 情報処理論Ⅰ