開発経済学入門:なぜ貧しい国の子どもたちは学校に通えないのか

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経済学の一分野である開発経済学とは、世界の貧しい国々はなぜ貧しいのか、そして、どうすればこうした国々が豊かになることができるのかを考える学問です。世界銀行(国にお金を貸すことを目的とする国際機関)の統計によると、1日1.25ドルで暮らす最貧困状態にある人々が今でも世界には12億人います。1.25ドルとは約150円であり、1日150円で生活するということがどのようなことかみなさんも想像してみてください。ほしい服を買うことはできず、食べたいものを十分に食べることすらできないでしょう。病気になったとしても病院に行くお金もないかもしれませんし、学校に行くお金もないかもしれません。貧しいということはこうした厳しい生活をしなければならないということです。

具体的な数字を挙げると、小学校に通う年齢であるのに小学校に通うことのできない子どもは世界に6700万人います。日本の人口が1億2730万人ですので、日本人全体の半分くらいの人数の子どもたちが学校に通えない状況にあるということです。また、栄養状態や衛生状態の悪さから、5歳になるまでに亡くなってしまう子どもが年間670万人もいます。世界のどこかで5秒に1人、5歳未満の子どもが亡くなっていることを意味します。

 

このような状況にある貧しい国を豊かにしていくためにはどうすればよいのでしょうか。重要な鍵となるのは教育です。学校に通えないということは、文字が読めずに簡単な計算もできないということです。ある国の人口の中で文字の読み書きができる人の割合を識字率と言いますが、日本などの先進国では識字率はほぼ100パーセントです。しかし、貧しい国の中には識字率が50パーセント以下、つまり国民の2人に1人は読み書きができないといった国があります。読み書きができないことで、立ち入り禁止の看板が読めずに地雷の埋まっている危険な場所に立ち入ったり、薬と毒を間違って飲んでしまったりするかもしれません。また、読み書きができないと、得ることのできる知識も限られてしまいます。例えば、予防接種が必要だという知識がないため、予防接種をうけずに重い病気にかかってしまうこともあります。読み書きができないことに加えて計算ができないとなると、商売をしていくことも難しいでしょう。したがって、貧しい国を豊かにするためには、子どもたちが学校に通って読み書きや計算を学び、生きていくうえで必要な知識をつけられるようにすることが必要不可欠なのです。

それでは、どうすれば貧しい国の子どもたちは学校に通えるようになるのでしょうか。まず思いつく方法は、学校をたくさん建てることでしょう。事実、世界銀行や国連などの国際機関、JICA(国際協力機構)、NGOの団体などが、貧しい国に学校を建てるというプロジェクトを数多く行ってきました。「カンボジアに学校を建てる」などといったキャンペーンを皆さんも見聞きしたことがあるかもしれません。こうした努力によって、貧しい国にも数多くの学校が建てられ、結果として多くの子どもたちが学校に通えるようになりました。20年前には学校に通えない子どもたちが1億人以上いたのが、今では6700万人にまで減っています。しかしながら、たくさんの学校が建ったにもかかわらず、まだ学校に通えない子どもたちが数多くいます。なぜなのでしょうか。

JICA

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(出典:JICAパンフレット「アフリカにおけるJICAの基礎教育協力」)

 

こうした貧しい国がかかえる問題について、経済学の考え方に基づいて考えるのが開発経済学です。経済学では需要と供給という観点から世の中で何が起こっているのかを分析します。需要とは何かを必要とすることで、需要者とは何かを必要とする人たちのことです。学校教育の例では、学校に通いたい子どもたち、あるいは子どもたちを学校に通わせたい親たちが需要者となります。一方で、供給とは何かを提供することで、供給者とは何かを提供する人たちのことです。学校教育の例では、教育を提供する先生たちや、学校を運営する政府の役人たちが供給者ということになります。学校が建ったにも関わらず、子どもたちが学校に通えない原因を、需要者と供給者それぞれについて考えてみたいと思います。

まず、需要者についてです。子どもを学校に通うことから妨げている要因としては、お金がない、時間がない、健康状態がよくない、といった点が挙げられます。貧しい国でも学校の授業料は無料となっていることが多いのですが、学校に通うためには授業料以外に、文房具代・制服代・給食費・交通費などのお金がかかります。こうした費用は決して大きな額ではありませんが、貧しい子どもや親にとっては大きな負担となります。そのため、授業料は無料にもかかわらず、お金がないという理由で学校に通えない子どもたちがたくさんいるのです。時間がないとはどういうことでしょうか。貧しい人たちは決して何もせずにぶらぶらしているわけではありません。むしろ、長時間働いているにもかかわらず貧しいということが多いです。そして、子どもも労働力としてみなされるため、農作業にかりだされることや、子どもでもできる仕事をしてお金を稼がなければならないことがあります。また、両親が働いている間に幼いきょうだいの子守をしなければならないということもあります。そのため、時間がないため学校に通えないという子どもがたくさんいるのです。

子どもの健康状態が悪いということも問題となります。お金と時間があったとしても、そもそも子どもが元気でないと学校には通えません。特にアフリカでは、体内の寄生虫が原因で体調不良となっている子どもが多くいます。最新の研究では、子どもたちを学校に通わせるのに費用対効果の高い方法(コスパのよい方法)は、子どもたちに無料で教科書を配ることでも無料の給食を提供することでもなく、虫下し薬を配布することだということが明らかになりました。虫下し薬を配布することにより子どもたちの体内の寄生虫が取り除かれ、体調がよくなって学校に通えるようになるのです。例えば東アフリカのケニアでは、子ども1人を1年間長く学校に通えるようにするために給食費の支給であれば36ドルかかりますが、虫下し薬の配布であれば3ドルですむのです。

次に、供給者について考えてみましょう。子どもを学校に通うことから妨げている要因としては、学校に教科書や机がない、先生の質が低くひどい場合は来ない、といった点が挙げられます。せっかく学校を建てたとしても、政府にお金がないと学校を維持できないということが生じます。学校の建物はあるけれど、教科書がなかったり、机や黒板がなかったりといった状況が起こるのです。また、日本では考えられないかもしれませんが、貧しい国では先生がまともな授業をすることができない場合や、ひどい場合には先生が他の仕事をするために授業をさぼって学校に来ないこともあります。これは、政府にお金がなく先生に十分な給料を払えないことが理由となっている場合もあります。

 

このように、教育の問題ひとつをとってみても、様々な要因が複雑に絡み合っていることがおわかりになったかと思います。貧しい国を豊かにするということはたいへん難しいことで、決して一筋縄ではいかないのです。まだまだわかっていないことも山ほどあります。しかしながら、1人でも多くの子どもが学校に通えるように、そして子どもたちに明るい未来が待っているようするため、開発経済学の挑戦は続くのです。

 

(注)本文中で引用した統計や図表等は、世界銀行・ユニセフ・JICA・J-PALのウェブサイトを参考にしました。

 

著者:樋口裕城

関連キーワード:開発経済学、貧困、途上国、教育

関連講義名:「経済開発論(学部)」、「開発経済学(大学院)」